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システム開発委託契約を書面で締結していないことによる問題点

 契約とは、「当事者間における合意」と定義することができます。民法では、契約当事者による「申込み」と「承諾」によって契約が成立し、書面がなくても理論上は、契約が成立します。システム開発の現場では、納期に間に合せるため、契約書による合意が確認されないまま開発作業に着手してしまうことがありますが、このような方法にリスクはないのでしょうか。この点を検討する上で、よく引き合いに出されるのは、東京地裁平成17年3月28日判決の事案です。この事案では、以下の電子メールのやりとりや議事録の記載が確認されています。

 

電子メールのやりとり

  1. ベンダ企業は、ユーザ企業の担当者に対し、初期導入費用については「ざっくり4000万くらいではと想定しております。(未確定部分も超概算で含めております)」と伝えた。
  2. ベンダ企業は、ユーザ企業に対し、ベンダが使用しているソフトウェア開発基本契約書のサンプルを送付することを伝えるとともに「昨日お願いしておりました、内諾のメールの方もよろしくお願いいたします。(弊社の手続きのためお手数をおかけしまして申し訳ありません)」などと記載したメールを送信した。
  3. ユーザ企業は、ベンダ企業に対し、次のような記載のあるメールを送信した。「基本的には御社に依頼しようかと思っております。そのための前提条件として以下の3点があります。
  4. ベンダ企業はユーザ企業に対し「非常に漠然とした表現なので、これでOKなのか確認してました。Fさんから、これでしょうがないという返事をもらいました。」とのメールを送信した。


議事録の記載

  1. 議事録の一つには「議題」欄に「キックオフミーティング議事録」と記載され、「議事内容」欄に原告が作業の進め方について説明し、被告が了解したことなどが記載され、「××殿承認者」欄にはユーザ企業担当者の押印がされている。
  2. 議事録のもう一つには、「議題」欄に「SAレビュー議事録」と記載され、「議事内容」欄に原告がシステム化業務の流れ及びシステム化機能の定義について説明したことなどが記載され、「××殿承認者」欄にユーザ企業担当者の押印がされている。
  3. 議事録には、「議題」欄に「定例進捗会議議事録」と記載され、「議事内容」欄に「SA工程」を完了とすることなどが記載され、「××殿承認者」欄にユーザ企業担当者の押印がされている。

 

そこで、ベンダ企業は以下のように、契約が成立していると主張しました。

ベンダの主張①

ベンダ企業とユーザ企業との間で、開発作業の開始を相互に確認することを意味する節目の会合とての「キックオフミーティング」が行われた。 

ベンダの主張②

ベンダ企業が有料の作業である「SA工程」に入ったことや、ユーザ企業がこれを認識していたこなどから、有償の作業に入ることについてユーザ企業との合意があった。


 しかし、裁判所は、ベンダ企業の①、②の判断について、それぞれ、以下のように判断して契約の成立を否定しています。

東京地裁平成17年3月28日判決

・ベンダ主張①に関する裁判所の判断

 キックオフミーティングがベンダ主張のような重要なものであったとすれば、ユーザにおいては、ベンダとの交渉を担当していた責任者であるCがこれに出席してしかるべきであるところ、同人は出席していないし、ベンダから同人の出席を求めたり、あるいは打合せの前後に同人にあいさつをしたというような事情もうかがわれない。 

   

・ベンダ主張②に関する裁判所の判断

 ユーザの担当者において、相応の注意を払えば「SA工程」が有料の作業であることを認識し得たということはできても、ベンダ企業がこの点を明確に説明していたと認めるまでの証拠はないし、実際にユーザの担当者がこれを認識していたというには疑問が残るものといわざるを得ず、他にこの点を左右するまでの的確な証拠はない。

 ベンダ企業の方は、違和感を覚えるかもしれませんが、企業間の契約である以上、会社内の意思決定プロセスが重視されるのは当然ではないかと思いますので、ベンダ主張①に関する裁判所の判断は適正といえるでしょう。また、ベンダ主張②について、裁判所は証拠がないと判断しています。契約書という書面による合意をしておけば、立証できずに敗訴するという事態は避けられたはずです。契約書という書面によって合意することがいかに重要であるか理解できるのではないかと思います。

弁護士プロフィール

弁護士 松島淳也
経歴

2006年 弁護士登録
2017年   松島総合法律事務所設立

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