お電話でのお問合せはこちら
03-6435-7788
受付時間 | 平日 9:30~17:30 |
---|
契約とは、「当事者間における合意」と定義することができます。民法では、契約当事者による「申込み」と「承諾」によって契約が成立し、書面がなくても理論上は、契約が成立します。システム開発の現場では、納期に間に合せるため、契約書による合意が確認されないまま開発作業に着手してしまうことがありますが、このような方法にリスクはないのでしょうか。この点を検討する上で、よく引き合いに出されるのは、東京地裁平成17年3月28日判決の事案です。この事案では、以下の電子メールのやりとりや議事録の記載が確認されています。
電子メールのやりとり
議事録の記載
そこで、ベンダ企業は以下のように、契約が成立していると主張しました。
ベンダの主張①
ベンダ企業とユーザ企業との間で、開発作業の開始を相互に確認することを意味する節目の会合としての「キックオフミーティング」が行われた。
ベンダの主張②
ベンダ企業が有料の作業である「SA工程」に入ったことや、ユーザ企業がこれを認識していたことなどから、有償の作業に入ることについてユーザ企業との合意があった。
しかし、裁判所は、ベンダ企業の①、②の判断について、それぞれ、以下のように判断して契約の成立を否定しています。
東京地裁平成17年3月28日判決
・ベンダ主張①に関する裁判所の判断
キックオフミーティングがベンダ主張のような重要なものであったとすれば、ユーザにおいては、ベンダとの交渉を担当していた責任者であるCがこれに出席してしかるべきであるところ、同人は出席していないし、ベンダから同人の出席を求めたり、あるいは打合せの前後に同人にあいさつをしたというような事情もうかがわれない。
・ベンダ主張②に関する裁判所の判断
ユーザの担当者において、相応の注意を払えば「SA工程」が有料の作業であることを認識し得たということはできても、ベンダ企業がこの点を明確に説明していたと認めるまでの証拠はないし、実際にユーザの担当者がこれを認識していたというには疑問が残るものといわざるを得ず、他にこの点を左右するまでの的確な証拠はない。
ベンダ企業の方は、違和感を覚えるかもしれませんが、企業間の契約である以上、会社内の意思決定プロセスが重視されるのは当然ではないかと思いますので、ベンダ主張①に関する裁判所の判断は適正といえるでしょう。また、ベンダ主張②について、裁判所は証拠がないと判断しています。契約書という書面による合意をしておけば、立証できずに敗訴するという事態は避けられたはずです。契約書という書面によって合意することがいかに重要であるか理解できるのではないかと思います。