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システム開発の現場では、プロジェクトの開始時に想定していなかった機能の追加開発や仕様変更(以下「追加作業」という。)が頻繁に発生します。しかし、大手のベンダ企業でも、追加作業の対価を、逐一、書面で合意しているというケースは少ないでしょう。そのため、発注者であるユーザ企業との関係維持という視点を重視し、追加作業に対する請求を断念する場合も少なくないように思います。
しかし、ベンダ企業が、契約締結時に予定していた請負代金等の報酬すら支払ってもらえない場合、ユーザ企業との関係が終了してもやむをえないと考え、請求できるものは全て請求するという発想で訴訟提起に踏みきることがあります。
この場合、契約締結時に合意していた請負代金等の報酬に上乗せして、追加作業の報酬を請求することになります。
このように、明示的な金額の合意がない場合に、よく利用されるのが、商法512条です。商法512条は、以下のとおり規定しています。
商法512条
商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。
従って、ベンダ企業(商人)が、自己の営業の範囲内において、他人(ユーザ企業)のために行為をしたときは、「相当な報酬」を請求できることになります。ここで問題になるのは「相当な報酬」をどのように決定するのかという点ですが、過去の裁判例では、以下のような事例が確認できます。
表 相当な報酬の算出方法
裁判例 | 相当な報酬の算出方法 |
大阪地裁 平成11年(ワ)第965号判決 | 「1人日当たりの作業可能ステップ数」から追加開発部分が何人日の作業であるのかを算出 |
東京地裁 平成14年(ワ)第2077号判決 | プログラム1本当たりの単価に追加開発したプログラム数を乗じて算出 |
東京地裁 平成18年(ワ)第6445号・平18年(ワ)第14701号判決 | 3か月間の期間における準委任としての作業の対価を基準として、追加開発に要した期間から算出 |
上記の裁判例は、それぞれ、ステップ数、プログラム数、開発期間を基準に計算しているという点は異なるが、「コンピューターシステムの開発の原価の大部分が技術者の人件費であり、その人件費は作成するプログラムの分量に概ね比例する」という考え方に基づくものと言ってよいでしょう。 これらの裁判例は、作業量に応じた報酬を認定しているという点で、ベンダ企業に有利な裁判例と評価できます。
しかし、ベンダ企業が、追加作業に関する見積書等、追加作業が有償であることを示す文書を一切提示していない場合や、契約書や提案書において、追加作業が発生する場合のルール(例えば、ユーザ企業がベンダ企業に対し、追加作業に関する作業依頼書を発行し、ベンダ企業が、これに対する見積書を発行し、更に、ユーザ企業が見積書に対する承諾書を発行した場合にのみ追加作業と扱うという趣旨のルール)が規定されているにもかかわらず、このルールに従った処理をしていない場合には、相当な報酬が認められないか、又は、認められても前述した作業量に応じた報酬額から減額されてしまう可能性もあるのではないかと思いますのでベンダ企業は注意が必要です。