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システム開発プロジェクトで成果物の引渡し以前に頓挫した場合の契約解除(ベンダのプロジェクトマネジメント義務とユーザの協力義務)

 システム開発委託契約において、納期遅延となったり開発作業を継続できなくなった場合、ユーザ企業としては契約を解除して、原状回復請求や損害賠償請求を検討することになるのが通常です。2020年4月に新しい民法(以下、新しい民法を「現行民法」、改正前の民法を「改正前民法」といいます。)が施行される前の改正前民法では、下記の民法541条等の条文を使って契約を解除していました。ここでは、改正前民法/現行民法の541条を例として紹介します。

1.改正前民法を前提とした契約解除

改正前民法541条

当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。 

 解除の要件を整理すると、以下のとおりです。

      債務を履行しない場合

     相当の期間を定めてその履行の催告(相当期間の経過)

  ③   解除の意志表示

           相手方の責めに帰すべき事由

 (条文には記載されていませんが、解釈上必要とされていました。)

 

 上記の要件のうち①ないし③は、手続き的な要件ですので、これらの点が争点になることは多くありません。通常は、④の責めに帰すべき事由(以下「帰責事由」といいます。)の有無が問題となります。つまり、帰責事由が、ベンダ企業に存するのか、ユーザ企業に存するのかという点が争点になることが多いのです。この帰責事由の判断をする場面でよく利用される用語が、ベンダ企業のプロジェクトマネジメント義務とユーザ企業の協力義務です。ベンダ企業は、ユーザ企業が協力義務に違反したから納期遅延や履行不能となったという点を主張するのに対し、ユーザ企業は、ベンダ企業がプロジェクトマネジメント義務に違反したから納期遅延や履行不能となったと主張し、いずれの主張が正当であるのかという点が判断されるわけです。

 

2.現行民法を前提とした契約解除

 これに対し、現行民法541条では以下のとおり規定されています。

現行民法541条

当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。 

 改正前民法では、条文には記載されていないものの、解釈上、相手方であるベンダの帰責事由が必要とされていましたが、現行民法では、帰責事由を解除の要件とはしないとの改正が行われたため、上記のような規定になっています。

 もっとも、現行民法543条では、以下のとおり規定されているように、ユーザ企業の帰責事由により、ベンダが債務不履行となった場合まで、解除できるわけではありません。

現行民法543条

債務の不履行が債権者(ユーザ企業)の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者(ユーザ企業)は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。

※ユーザ企業の括弧書は筆者が加筆

 従って、ユーザが契約の解除の意思表示をした場合、解除の有効性を争うベンダとしては、「債権者(ユーザ企業)の責めに帰すべき事由」(ユーザ企業の協力義務違反)によって納期遅延や履行不能となっていることを主張することになり、ユーザ企業としては、自らの協力義務違反ではなく、ベンダ企業のプロジェクトマネジメント義務違反によって納期遅延や履行不能となっていることを主張することになるでしょう。結局、ベンダ企業のプロジェクトマネジメント義務とユーザ企業の協力義務の問題となると考えられます。

3.ベンダ企業のプロジェクトマネジメント義務

 ベンダ企業の「プロジェクトマネジメント義務」という用語は、法律の条文に規定されている義務ではなく、判例上、用いられるようになった用語です。東京地裁平成16年3月10日判決(東京地裁平成12年(ワ)20378号、平成13年(ワ)第1739号)では、プロジェクトマネジメント義務について以下のとおり判断しています。

東京地裁平成16年3月10日判決    

被告(ベンダ企業)は、納入期限までに本件電算システムを完成させるように、本件電算システム開発契約の契約書及び本件電算システム提案書において提示した開発手順や開発手法、作業工程等に従って開発作業を進めるとともに、常に進捗状況を管理し、開発作業を阻害する要因の発見に努め、これに適切に対処すべき義務を負うものと解すべきである。そして、システム開発は注文者(ユーザ企業)と打合せを重ねて、その意向を踏まえながら行うものであるから、被告(ベンダ企業)は、注文者である原告(ユーザ企業)のシステム開発へのかかわりについても、適切に管理し、システム開発について専門的知識を有しない原告(ユーザ企業)によって開発作業を阻害する行為がされることのないよう原告(ユーザ企業)に働きかける義務(以下、これらの義務を「プロジェクトマネージメント義務」という。)を負っていたというべきである。

※ベンダ企業、ユーザ企業の括弧書は筆者が加筆

 プロジェクトマネジメント義務には、①「納入期限までに本件電算システムを完成させるように、本件電算システム開発契約の契約書及び本件電算システム提案書において提示した開発手順や開発手法、作業工程等に従って開発作業を進めるとともに、常に進捗状況を管理し、開発作業を阻害する要因の発見に努め、これに適切に対処すべき義務」(以下「進捗管理・阻害要因排除義務」といいます。)と②「注文者である原告(ユーザ企業)のシステム開発へのかかわりについても、適切に管理し、システム開発について専門的知識を有しない原告(ユーザ企業)によって開発作業を阻害する行為がされることのないよう原告(ユーザ企業)に働きかける義務」(以下、「発注者管理義務」といいます。)の2つに分類することができます。これらの義務に違反する例としては、以下のような場面が考えられます。

 

表1 プロジェクトマネジメント義務違反と考えらえる例

進捗管理・阻害要因排除義務違反の例 発注者管理義務違反の例  
  1. 要件定義工程等におけるベンダ企業の主力メンバが、開発工程以後の工程に関与していないため(退職、異動、病気等)、開発内容を正確に把握できず、納期に遅延した場合 
  2. 単体テストや結合テストが不足しているため、プログラムに障害・不具合が多数発見され、検収期間に改修作業が完了しない場合
  1.  ユーザ企業が主体となって行う要件定義等で必要となる情報の提供等についてユーザ企業に働きかけをしていない場合
  2. ユーザ企業からの仕様変更や機能追加の要望について、当該要望を受けた場合には、納期に遅延することを把握していたにもかかわらず、安易にこれを引受け、納期に遅延した場合

 

4.ユーザ企業の協力義務

 ユーザ企業の「協力義務違反」も法律に規定されている用語ではなく、判例上、用いられるようになった用語です。東京地裁平成16年3月10日判決(東京地裁平成12年(ワ)20378号、平成13年(ワ)第1739号)では、以下のとおり判断しています。

東京地裁平成16年3月10日判決

委託者(ユーザ企業)が開発過程において、内部の意見調整を的確に行って見解を統一した上、どのような機能を要望するのかを明確に受託者に伝え、受託者とともに、要望する機能について検討して、最終的に機能を決定し、さらに、画面や帳票を決定し、成果物の検収をするなどの役割を分担する。 

※ユーザ企業の括弧書は筆者が加筆

 即ち、ユーザ企業にも、各工程において、以下の表に応じた役割分担があることを判示しています。

表2 各工程におけるユーザ企業の協力義務の例

工程 協力義務の内容
要件定義  どのような機能を要望するのかを明確にベンダ企業に伝え、ベンダ企業とともに、要望する機能について検討して、最終的に機能を決定する。
外部設計

(基本設計)


画面や帳票を決定する。 
 
運用テスト

運用テストの内容やスケジュールをベンダ企業とともに検討する。

運用テストに必要なデータを提供する。

利用部門がテストを実施する。

検収 検収作業を実施する。  

 

   以上のように、ユーザ企業が契約を解除できるか否かは、ベンダ企業がプロジェクトマネジメント義務に違反したことが債務不履行の原因なのか、それともユーザ企業が協力義務に違反したことが債務不履行の原因なのかという点に大きく左右されることになるのです。

弁護士プロフィール

弁護士 松島淳也
経歴

2006年 弁護士登録
2017年   松島総合法律事務所設立

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