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システム開発委託契約において、引渡しは完了したが不具合が発生しているという場合、ユーザ企業としては、不具合の程度によっては、損害賠償請求のみならず、契約を解除して、他のベンダ企業に発注し直したいと考えることがあるでしょう。2020年4月に新しい民法(以下、新しい民法を「現行民法」、改正前の民法を「改正前民法」といいます。)が施行されていますが、改正前民法の瑕疵担保責任は、契約不適合責任に改められて、要件も異なりますので、それぞれの規定を比較しながら、要件を確認します。
1.改正前民法を前提とした瑕疵担保責任を根拠とする契約解除
改正前民法では、同法635条の瑕疵担保責任の要件を満たすか否かによって解除できるか否かが判断されていました。
改正前民法635条
仕事の目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的を達することができないときは、注文者は、契約の解除をすることができる。
改正前民法では、システムが完成していることが前提となるため、単に瑕疵(バグ、障害、不具合)があれば契約解除できるというものではなく、「契約をした目的を達することができない」瑕疵の存在が要求されていますが、具体的には、どのような場合が考えられるでしょうか。
例えば、東京地裁平成9年2月18日判決では、以下のように判断しています。
東京地裁平成9年2月18日判決
コンピューターソフトのプログラムには右のとおりバグが存在することがありうるものであるから、コンピューターシステムの構築後検収を終え、本稼働態勢となった後に、プログラムにいわゆるバグがあることが発見された場合においても、プログラム納入者が不具合発生の指摘を受けた後、遅滞なく補修を終え、又はユーザ-と協議の上相当と認める代替措置を講じたときは、右バグの存在をもってプログラムの欠陥(瑕疵)と評価することはできないものというべきである。これに対して、バグといえども、システムの機能に軽微とはいえない支障を生じさせる上、遅滞なく補修することができないものであり、又はその数が著しく多く、しかも順次発現してシステムの稼働に支障が生じるような場合には、プログラムに欠陥(瑕疵)があるものといわなければならない。
この裁判例によると、「システムの機能に軽微とはいえない支障を生じさせる上、遅滞なく補修することができないものであり、又はその数が著しく多く、しかも順次発現してシステムの稼働に支障が生じるような場合」には瑕疵があると判断されることになります。この裁判例では、厳密にいうと「瑕疵」という表現をしており、「仕事の目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的を達することができない」場合を明示的に判断したものではないとの評価もあり得るところですが、後続の裁判例(東京地裁平成16年12月22日判決、東京地裁平成25年5月28日判決)で示された2つの具体例の場合は、「仕事の目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的を達することができない」場合にも該当しそうです。
典型的に問題となるのは、①検索等に要する処理速度が異常に遅い場合、②順次バグが発現してシステムの稼働に支障が生じる場合の2つの類型ではないかと思われます。
まず、①の類型は、ベンダ企業が遅滞なく補修しようとしても、データベース等の設計工程に遡ってやり直す必要性があり、単純なプログラムのコーディングミスの修正では対処できない場合があることに起因していると考えられます。
例えば、東京地裁平成16年12月22日判決では、下記のとおり判断されています。
東京地裁平成16年12月22日判決
本件程度のシステムにおける一括在庫引当処理に要する時間は、せいぜい数分程度が一般的に要求される内容であったということができ、テストデータ三〇〇件ですら処理時間に四四分も要するようなシステムは、およそ本件契約の内容に適合しないものというほかない。したがって、本件システムにおける一括在庫引当処理の時間に関しては、当事者間に処理時間の長さにつき明示の合意がないとしても、同程度のシステムに通常要求される内容に適合せず、他方で、前記したような処理時間を許容するような合意を認めることもできないのであるから、瑕疵に該当するというほかない。(中略)本件システムは、数時間を要する一括在庫引当処理中には、一切、他の商品マスタを利用する処理ができず、また、一人でも商品マスタのメンテナンスを行っていればその間は全く一括在庫引当処理ができないことになり、同様のことが「要発注リスト」及び「棚卸差異反映処理」の場合にも生じるのであって、本件システムが実際の業務において使用に耐えないことは明白であるから、およそ本件契約の内容に適合しないといわざるを得ず、したがって、一括在庫引当処理及び排他制御の問題は、契約の目的を達することができない重大な暇疵に該当することが明らかである。
次に②の類型についてですが、法務・総務の担当者の方は、あまりこのような状況になじみがないかもしれません。しかし、長年にわたってエンジニアをされている方であれば、単体テスト等のテスト仕様書が不十分であることが理由で、このような状況が発生することを経験したことがあるのではないでしょうか。裁判例としては、東京地裁平成25年5月28日判決があります。判示内容が長いため、以下のとおり、結論と解除が有効であるとした主な理由のみ掲載します。
東京地裁平成25年5月28日判決の解除に関する判断の要旨
(結論)
ユーザによる契約解除は有効である。
(理由1)
本件新基幹システムの不具合・障害は、期間Ⅰから期間Ⅲにかけて長期間にわたって順次発現しているものであり、しかも、軽微とはいえないものが多数発生しているといわざるをえない上、不具合・障害が更に多数発生する原因となる可能性のある事情も存在する。
(理由2)
ベンダが提案する品質担保策で、上記のとおり順次発生する不具合・障害に対する根本的 な対策を講じようとするならば、10か月に達するような大規模な個別機能テストを行わなければならない
2.現行民法を前提とした契約不適合責任を根拠とする契約解除
現行民法では、引渡し後に不具合が発見された場合も、同法541条等で解除できるか否かを判断することになります。
現行民法541条
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
もっとも、引渡し後に不具合が発見された場合は、「債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微」であるか否かという点が主な争点となることが予想されます。
そうすると、改正前民法の「仕事の目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的を達することができない」場合と、どのような差があるのかという点を確認する必要がありますが、「契約及び取引上の社会通念に照らして軽微」といえるか否かの判断においても、契約をした目的を達成することができるか否かは最も重要な考慮要素になると考えられており、改正前民法と現行民法とで、契約を解除できる場面に大きな差はないと考えられています。